2008年8月30日土曜日

さようならVIP

 ブッシュ氏が米大統領選に敗れた年の終わりに、「去る」人に焦点を当てた特集記事の一部である。観察力は取材力である。とはいえ、このライター、どこでブッシュ氏を見つめていたのだろうか。

 ソ連邦崩壊による冷戦終結で唯一の超大国として残ったアメリカでは、12年間続いた共和党政権が、新たな国家目標を模索する国民の批判の前に倒れた。

 劣勢の中、最後まで勝利を信じて疑わなかったジョージ・ブッシュ(68)は、必死に敗北のショックに耐えていたが、選挙から1週間後、ロバート・ドール上院院内総務の開いた慰労パーティーで一瞬感情を激発させた。

 演説にたったブッシュ氏は「しばらく休みをとり、自分の置かれた現実と、これからのことを考えたい」と話していたが、突然選挙での敗北に触れ、「痛烈に心の痛む巨大な敗北だった」と初めて苦悩と心痛を吐露した。席に戻ってからもドール氏の感傷的演説に顔を両手で覆い、涙をぬぐった。

 その日の深夜、ブッシュ氏は突然側近を呼び、「だれも連れずにベトナム戦没者慰霊碑に行く」と告げた。ベテランズ・デー(復員軍人の日)の当夜、ベトナム慰霊碑では夜通し5万8000人の戦没者の名前を読み上げる儀式が続いていた。

 革ジャン姿のブッシュ氏はバーバラ夫人を伴い、慰霊碑の前で復員兵に交じって名前の読み上げに加わった。

 マッカーシー旋風の赤狩りと戦ったプレスコット・ブッシュ上院議員の二男として誇り高く育てられたブッシュ氏に、大統領選の敗北は耐え難いほどの苦痛だったと思われる。ソマリアへの突然の人道派兵決定は、湾岸戦争以来唯一の超大国としての覇権と影響力を保持することに最大の努力を払ったブッシュ氏の”遺言”であり、大みそから元日にかけてのソマリア視察はその傷ついた心をいやすための旅に違いない。

 

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