94年9月の毎日新聞本社に対する発砲事件発生時の社会面記事。人の話でつなぐというオーソドックスなスタイルで、発生の様子を視覚的に再現してみせた。位置関係はじめ基本的な現場情報も的確に織り込んでいる。
3階でエレベーターから降りた男性社員は,社員食堂の前で,男が立ち止まって,ブツブツ言っているのに気がついた。つるつる頭に、口ひげ。「変な男だな」。その横を通り過ぎ、出版局に向かった直後、背後で「パーン」という音がした。
振り向くと、男が腰のあたりに両手で短銃を構えていた。あわてて出版局へ駆け込む途中、2度目の銃声を聞いた。
食堂を経営する「毎日食堂」専務の男性(56)は、現場のすぐわきの喫茶室にいた。
「食堂の入り口のところに、映画に出てくるヤクザのような、ずんぐりした男が両手でピストルを構えていた。2発目は、弾丸がはねたようなカチンという音がした。目の前でこんなのを見るとは」
当時、喫茶室は営業終了後で、室内には食堂従業員が数人いた。「命が危ないと思って床に伏せた」「『編集長出せ』という声を聞いた人もいる」と口々に話した。
食堂の向かいにある労組書記局にも、数人がいた。「者が壊れるような音」にドアのすき間から廊下を見た人は、短銃を構えている男に、あわてて部屋の奥に隠れたという。
事件前、『サンデー毎日』編集部に電話がかかっていた。「編集長に言いたいことがある。不満がある。すぐ行く」。電話は一方的に切れた。男が姿を見せたのは、その直後だった。
事件後、編集部では部員たちが、発砲事件のニュースに見入っていた。ある部員は「うちの記事が刺激したとも思えないが…」と首をかしげた。
毎日新聞のあるビルは、地下2階で地下鉄東西線竹橋駅につながっている。改札口の目の前が同社の入り口。その横には警備員ひとりが常駐しているが、社内への出入りはノーチェックに近い。受付や保安課のある1階には、洋品店などの店舗もあり、だれでも自由にエレベーターに乗れる。現場の床には、天井から跳ね返ったと見られる弾丸が転がっていた。
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